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「中年の危機」を「人生の転機」として活かす

谷地森 久美子
2022.10.31

ユング心理学から考える「中年期」の活かし方

あなたは、今、おいくつでしょうか。このタイトルがふと気になってクリックしてくださったのだとしたら30代から50代にかけてのミドルエイジでしょうか。そして、この時期に「中年の危機」があることをご存じの方も多いでしょう。「危機」と聞くと一見、ネガティブな印象もありますが、C.G.ユングは、「危機を人生の転機として活かす重要性」を説きました。

「中年の危機」はある日突然やってくる

ユングは、「中年の危機」を「これまでの価値や理想がひっくり返るような人生の転機(の経験)」と表現しました。
さて、中年の危機とは、どういう状況・状態を指すのでしょうか。私は、これまで数多くのミドルエイジの方々のお話を伺ってきました。そして、それらの話をもとに中年の危機には次の3つのパターンがあると考えます。

 

① ある日突然、昨日とは違う現実に遭遇する危機

・急な身体の異変、大きな病気の宣告。致命的な身体の損傷

・事故、事件、震災などどの遭遇

・家族、ペット、パートナー、恋人、友人など、大事な存在の死

・多額の金銭の喪失

・会社の倒産、会社からの解雇……など

 

②じわじわと表面化する危機

・若いときには思いもつかなかった健康上の不安

・家族や大事な人の健康状態の長期的な悪化、親の認知症の悪化と介護問題

・子どもの問題(いじめ、不登校、精神疾患、発達障害など)

・パートナーや子どもとの関係がこわれていく

・単身赴任などによって、環境、仕事内容、人間関係などにおいて複数の変化が同時に起きる

・仕事において、徐々にこれまでの蓄積が通用しなくなる状況

・世代交代などで、自分が周囲に必要とされなくなったと感じ喪失感……など

 

③ 一見、危機に見えない危機

・子どもの自立(進学、独立、結婚など)による喪失感

・昇進や抜擢にともなう、役割や仕事の変化

・若い頃の目標を達成(それによって、その後の生きる目的の喪失……など

 

みなさんは、いくつ心あたりがあったでしょうか。

 

いずれにしても、中年の危機に直面した段階で、これまで馴染んできた世界がガラリと変わってしまう。そのため今どこに立っているのか、そして今後どのように進めばよいのか分からなくなる――。

 

まさに自我(アイデンティティ)の崩壊・危機が生じる。この茫然自失の状態は、羅針盤を失ったまま、真っ暗な大海を漂流している船にたとえて、「夜の航海」「魂の暗夜」とも呼ばれています。

 

多くの場合、その渦中では、危機だと捉える余裕すらないでしょう。数か月から半年スパンの時間をかけ、かなり一段落したあとで、「あれは何が起きていたのか」「あぁ、これが中年の危機か」などと、ようやく振り返ることができるのです。

 

実は先にあげたユング自身、中年期に精神病のような危機的状態に陥りました。まさに我が身でそのつらさを感じ、それを乗り越えたサバイバーなのです。その体験をもとにして、ユングは人生における「中年期」に着目し、その重要性と意義深さを見出していったのです。

 

中年期の重要性と意義については、次のコラム【35歳からの人生を豊かにする視点】でさらに取り上げていきます。

 

参考文献

*C・G・ユング、ヤッフェ編『ユング自伝1~2 思い出・夢・思想』(みすず書房)

*谷地森久美子『ふりまわされない自分をつくる 「わがまま」の練習』(角川書店)

臨床心理士、公認心理師。東京学芸大学大学院修了。心の専門家として約30年の活動を通し総計4万件の相談実績を持つ。中年の危機、恋愛・結婚、仕事の人間関係、家族問題などで、生きづらさを感じている大人が、自分らしさ、本来の「ありのまま」を取り戻すことを通して確実に前進する、そのカウンセリングスタイルに定評がある。 著書:『ふりまわされない自分をつくる 「わがまま」の練習  心の中に線を引けば全部うまくいく』(角川書店)

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